パサイ署からも放り出されてしまった息子です。日本であれば何らかの罪で逮捕して勾留するはずですが、金をむしり取れないとわかればフィリピン警察は息子に用事はありません。
息子はフィリピンでも度々問題を起こしていました。現在住んでいるアパートでも、隣近所が集まって酒盛りをして騒いでいると、ズカズカと入っていき「うるさい」と怒鳴りました。
当然、フィリピン人達は怒って揉めました。こういう話を聞くたびに、ムツコさんは悲しくなってどうしようもない気持ちになります。
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日本に馴染めない人はフィリピンに受け入れて貰おう
フィリピンに住みながらフィリピンの風習、文化、習慣に従えない日本人は昔からいます。フィリピン人の奥さんに対して、日本人妻的なことをやたら要求する日本人もいます。
国が違えばいろんなことが異なるわけです。郷に入れば郷に従えを知っているはずですが、ついつい日本式を要求してしまいます。
息子が問題を起こすたびに、フィリピン人に対して申し訳ないとムツコさんは思いました。彼の心の闇を晴らす方法があるわけでもなく、「もういいわ。ほったらかしにしてしまおう」と思ったりもします。
かといって、彼の食欲が減ったりすると、妙に心配になってしまいます。こういった心の葛藤を繰り返しながらも最後はこんなふうに言います。
「私が死んだら私の息子に彼の面倒を見させようと思っているの」
彼は背が高く細身で、一見普通の日本人に見えます。しかし彼の顔には表情がなく、目が虚ろで、やはり変わった人だとわかります。彼はたまにムイコさんに言います。
「日本に帰るチケットをくださいよ」「あなた、家に帰ると、またお母さんやお姉さんに暴力を振るうのでしょ?」「う~ん、そうですね。でも今はそういったパワーはありませんよ」
こんな会話が交わされますが、日本からやってきた日本人とムツコさんが日本の話しているのを彼が聞いて、日本に帰りたいと触発されないかムツコさんは心配していました。
やはり生まれた国ですから、懐かしく思うのは当たり前です。そんなときは「フィリピン人って優しいよね。私の家に彼がふらっと寄ることがあるけど、メイドは分け隔てなく彼に接してくれるの。
運転手もクリスマスパーティーに彼を呼んでくれたりするのよ。彼は頭がおかしい人だとわかっていても気兼ねなくかまってくれるのよ」とムイコさんは話します。
ムイコさんのオフィスには色んな人間が出入りします。彼を見ると怪訝な顔をする日本人がほとんどですが、元ホストだけは彼に声をかけました。
「おい、お前、元気にしてるのか?食事でも一緒にどうだ?」と元ホストは気軽に声をかけました。ですから彼も元ホストのことを慕っていました。
フィリピン旅行に来てお金を盗られて1円もない人が、彼女のオフィスに駆け込むこともあります。ムツコさんは元ホストに、「この人、お金がないから1泊させてくれない」と言うと、二つ返事で「いいですよ~」と言います。
元ホストはムイコさんのオフィスで彼に話しかけました。「よっ、元気か?」「まぁまぁです」「飲みに行かないか?」「いやぁ、最近僕も忙しいんですよ」と不思議な返事です。
何もしていない、何も出来ない彼が忙しいはずがありません。しかし彼は忙しいような素振りをします。
「いやぁ、バランガイキャプテンといろんな打ち合わせがあるんですよ」「はぁ?バランガイキャプテンはオメェと打ち合わせがある?それは打ち合わせじゃなくて、世間話っていうんだよ」と元ホストが返します。
彼はスラムのような場所に住んでいます。彼にとってこのスラムなフィリピンは、皆が普通に扱ってくれるから居心地がいいようです。
彼はどこか頭のネジが緩んでいますから、生意気な態度やアリもしない話を普通にします。いじめられやすいタイプなのは否めません。顔もどこか抜けていながら、ふかし話が多いので狙われがちです。
元ホストは高校時代にクラスメートをいじって遊ぶことが多々ありました。ですから、いじめられやすいタイプはすぐにわかりました。
彼はクラスでも中途半端なタイプでした。こういった子が当時は一番いじめられやすく、「クラスの女の子の前に行って、パンツおろして来い」などの理不尽な命令をされます。
元ホストも随分、理不尽な命令をして虐めたり、イジっていましたが、その本人が他の人間に虐められると一緒に仕返しに行きました。虐めるターゲットでもあり、仲間でもあるという不思議な関係でした。
彼は学校時代の話をよくしていました。彼の父親は海外勤務で日本にほとんどいませんし、母親も働いていましたから家にいません。
いつも鍵を首からぶらさげる鍵っ子でした。
家に帰っても誰も居ないので、学校で虐められても学校のほうが楽しかったといいます。彼は学校で仲間にあまり恵まれなかった可能性がありました。
「フィリピンは好きか?」「金があれば最高ですよね」「どのくらいあればいいの?」「5,000ペソぐらいあればいいですね」と元ホストと彼の会話はいつも変です。
彼はマクドナルドが大好きで、メトロ・マニラのマクドナルドはほぼ制覇していました。バスだろうと、ジプニーだろうと、どこへでも食べに行きます。子供の頃から買い癖がついているようでした。
虐められやすく、生意気な面がありながらも、何も出来ない彼ですが、フィリピンの歴史にやたら詳しかったりします。フィリピンの歴代の大統領を言えたり、タガログ語もペラペラです。
映画が好きで、タガログ語の映画をもちろん字幕無しで見て楽しんでいます。フィリピンのタブロイド版を読むのが好きで、元ホストは彼から色々教わりました。
彼はとても性欲が強いですが、当然、彼女が出来るはずがありません。プロの女性に頼んだこともありますが、あまりのしつこさに逃げたほどです。
ムイコさんは彼にはっきりと本当のことを言います。父親が亡くなったこと、母親と姉は日本に帰ってきてほしくないと思っていること、ムイコさんにも迷惑をかけていることもズバスバ話します。
ですから彼はムイコさんの前では平身低頭でした。
元ホストは彼のことが好きでした。自分には出来ない、やりたい放題な生き方は見ていてスッキリするそうです。人の迷惑や思いなど一切気にすること無く、生きることって出来そうで出来ません。
ムイコさんの会社のスタッフも彼のことをかわいがっているというか、仲間として認めています。スタッフは彼のことを「たまごっち」と呼びます。
「どういう意味?」と元ホストがスタッフに聞くと、「私達が育ててるからたまごっち」と話します。フィリピンも一時的にたまごっちが流行りましたから、その名残から彼をたまごっちと呼んでいます。
続く
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